「いろいろなところで栓として使える事は解ったけど、ルディーン君は違う使い方をするつもりなのよね?」
ニールンドさんは樽の栓しか思いつかなかったみたいで、僕が何に使うつもりなのか興味津々。
ほんとは何に使うの? って聞いてきたんだよね。
だから僕、教えてあげる事にしたんだ。
「あのね、スプリングの代わりにしようって思ってるんだよ」
「すぷりんぐ?」
でもね、せっかく教えてあげたのにニールンドさんはよく解ってないみたい。
だから僕、どんなのかを教えてあげる事にしたんだ。
「あのね、スプリングって言うのは、みよんみよんって曲がる細い鉄の棒をくるくるってしてできてるんだよ」
スプリングがあれば柔らかいベッドやソファーなんかが作れるんだよね。
だから僕、前に何とかクリエイト魔法で作れないかなぁ? って挑戦してみた事があるんだよね。
だけど試しに鋼の玉を材料にして作ったのを上から押してみたら、そのまんま潰れちゃって元に戻らなかったんだ。
って事は、やっぱりみよんみよんっって曲がる特別な鉄がいるって事だよね?
でも僕、みよんみよんって曲がる鉄をどうやって作ったらいいか解んないから、スプリングは作れないんだなぁってあきらめてたんだ。
「えっと、みよんみよん?」
「うん! みよんみよんって曲がらないと、スプリングは作れないんだ。だって普通の鉄だと、曲げたら元に戻らないもんね」
もしかしたらニールンドさんが知ってるかも? って思って一生懸命お話したんだけど、どうもよく解ってないみたい。
って事はやっぱり、みよんみよんって曲がる鉄は無いのかなぁ?
でもいいんだ! だってその代わりになりそうなのが見つかったんだもん。
「でも、そのみよんみよんって曲がる鉄をくるくるってすると、上から押してもちゃんと元に戻るんだ」
「なるほど。要するに、そのスプリングって言うのは押しつぶしても元に戻るのね」
「うん! だから、それがあったらいろんなものが作れるようになるんだ」
本物のスプリングと違ってそんなにビヨンって戻らないからサスペンションとかは作れないだろうけど、長椅子とかソファーになら使えると思うんだよね。
それにもっといっぱい並べたら、きっとベッドにもできるんじゃないかな?
だから僕は、その事をニールンドさんに教えてあげたんだけど、そしたら何でか知らないけどちょっと怖い顔になっちゃったんだ。
「ニールンドさん。何で怒ってるの? 僕、何か悪いことした?」
「えっ? ああ、ごめんなさい。そうじゃないから安心して」
ニールンドさんはね、僕が言ってる事がほんとだったら、それはすごい事なんだよって教えてくれたんだ。
「さっきも言ったけど、この傷だらけの皮は本来捨てられるものなのよ。だからその処理だけでも結構なお金がかかっていたのよね」
捨てるのにはお金がかかるけど、何十枚に1枚は椅子に敷くくらいの大きさが取れるものがあるし、何百枚に1枚はベッドのマットレスに使えるものが出てくるでしょ?
だからあんまり高くは無いけど、ブルーフロッグの背中の皮も持ち込まれたものは全部買い取ってたんだって。
「でも、ルディーン君が言っていることが本当なら、その状況が一変するわね」
だけど直径3センチくらいの丸型だったら、どんな傷だらけの皮にだって絶対あるよね?
だったら、持ち込まれる皮全部が使えるものになるって事なんだ。
「そっか。でも、一度なめしてみないと、ほんとに使えるかどうか解んないよ?」
ニールンドさんは僕の話を聞いて絶対使えるって思ってるみたいだけど、でも僕は使えたらいいなぁって思ってるだけで、ほんとにスプリングの代わりになるかなんてまだ解んないんだよね。
だからそう言ったんだけど、
「確かにそうね。実際にやってみましょう」
そしたらニールンドさんは、今からなめしてみようって言いだしたんだ。
「ちょっと待ってください。やってみようはいいですけど、今から始めても俺たちが村に帰るまでに終わらないんじゃないですか?」
でもね、それを聞いてびっくりしたのがお父さん。
なんでかって言うと、皮をなめすのには普通、いろんなものを入れて作ったなめし用の水に皮を長い間漬け込んでおかないとだめだからなんだって。
「ああ、大丈夫ですよ。長時間付け込まないといけないのは、そうしないと皮の芯までなめし液が浸透しないからですもの。この大きさなら魔法薬でも1時間とかからず浸透するだろうし、魔道具を併用すればもっと早く出来上がると思いますから」
とっても高く売れる魔物の皮とかだと、入ったらすぐに欲しいって言う人たちがいるんだって。
だからそんな人たちのために、ほんとだったら何日もかかるのを一瞬で終わらせちゃう魔法のお薬があるんだってさ。
「そんなものが作れるのですか?」
「ええ。怪我だって普通は治るのに何日もかかるものをポーションを使えば一瞬で治ってしまうでしょ? 専門家に言わせると動物や魔物の皮もそれと同じで、状態をポーションで変えるのはそれほど難しくないらしいですよ」
傷がつくって事は皮が破れるって事だよね?
ポーションを使えばそれがすぐできるって事は、その皮に一瞬でポーションが浸透したって事なんだって。
「ただ、はぎ取った皮は人の体と違ってすでに生命活動を終えてしまっているので、残念ながら怪我用のポーションで修復させることはできないそうですけどね」
それができたら全部の皮がマットレスにできるのにって笑うニールンドさん。
でも、なめすだけならすぐにできるからって、さっきの道具を使ってブルーフロッグの皮を切り抜いてから、僕たちはそれを持って漬け込む作業場へと移動したんだ。
「ほんとうに、あっという間ですね」
蓋つきの桶みたいな魔道具から取り出した皮を見て、お父さんはびっくり。
ニールンドさんはさっきそんなに時間がかからないって言ってたけど、なめし皮を作る魔道具を使ったらホントに15分ほどでなめし皮になっちゃってみたいなんだ。
「それじゃあルディーン君。これを乾燥させてもらえる?」
「うん、いいよ!」
魔道具から出したばっかりでまだべたべたのブルーフロッグの皮に僕が<ドライ>の魔法をかけると、量が少なかったからなのかすぐにからからに乾いちゃったんだ。
「ちょっと乾かしすぎちゃったかな?」
「ブルーフロッグの皮は、なめした後に乾燥させるとこんな感じになるから大丈夫だと思いますよ」
だからやりすぎちゃったかな? って言ったんだけど、ニールンドさんはその中の一つを手に取って大丈夫だよってにっこり。
そしてその皮を押したり引っ張ったりして、どんな感じなのかを確かめ始めたんだ。
「これはまた……なんと言っていいか、かなり変わった感触ですね」
今まではおっきくてきれいな皮ばっかり触ってたから、こんな細長いのを触るのは初めてでちょっと変な感じがするんだって。
だけど見た感じ、うまくできてるんじゃないかなぁ?
そう思った僕は、目の前の皮を一つとって振ってみたり、机の上にのっけて上から押してから、ぱっと放してみたりしたんだ。
「でも、ちゃんとできたみたいだよ。だってほら、ちゃんとみよんみよんするし、さっき押してみたらビヨ〜ンってなったもん」
そしたらちゃんとバネとおんなじようになったもんだから、一安心。
これならちゃんと使えそうだねって、手に持ったブルーフロッグの皮を振って見せてあげたんだ。
「なるほど。じゃあ、ルディーン君が考えていた通りの性能が出たんですね?」
「うん。これだったら大丈夫だと思うよ。あとはね、もっと太いのとかを作ればもっといろんなものが作れると思うよ」
あんまり大きいと全体がべこってへこんじゃうからダメだけど、細すぎても使いづらいかもしれないもん。
だからね、僕はクリエイト魔法でいろんな大きさの道具を作ってみて、それで切り抜いた皮をなめしてみたんだ。
「この感じからすると、ルディーン君が最初に作った細い皮は一人用の椅子に向いているようですね。逆に、長椅子やベッドにはこの太いのが向いているようです」
でね、それをニールンドさんが調べてみたら、やっぱり太さによって向いてるのと向いてないのがあったんだって。
あとこれをやってみて、もう一個解った事があるんだ。
「ベッド用のマットレスも、この筒状の皮で作るとまた違った寝心地になるみたいですね」
「そうなの?」
「ええ。大きな一枚の皮を複数枚つなげて作る物はとても柔らかく、体を包み込むような寝心地になるんですけど、こちらだと力が分散する分、しっかりとしているにもかかわらず柔らかいと言う寝心地になるようです」
ニールンドさんはね、これだけ違うんだから、人によって好みが解れるんじゃないかなぁ? って言うんだよ。
「どちらにしても、この筒状の皮がとても広い使い道を持つことが証明されました。なので、先ほどルディーン君が作った切り抜き用の道具ともども、この筒状のブルーフロッグの背中の皮を商業ギルドの特許に申請しておきますわ」
でね、こういう使い方ができるんだよって事をみんなが知ってくれたら、これからは傷だらけの皮だって売れるようになるもん。
だからすぐに特許申請して一日でも早く売れるようにしなきゃって、ニールンドさんはそのための書類を作ってきますってどっかに行っちゃったんだ。
ただ、スプリングが欲しかっただけなのに、結局またルディーン君の特許が増える事になってしまいました。
その上、こちらは冷蔵庫などと違って用途が広いので、今まで以上に儲かる事でしょう。
それに捨てるだけだったものが売れるようになるだけでなく、処理費用まで浮くのですから冒険者ギルドも大助かりです。
ただ、これ以上稼いでもあまり意味が無いような? ルディーン君、もうすでに一生かかっても使いきれないくらいのお金をもってるんだけど……。